アカマタの夜

25,26日は宮良集落の豊年祭だった
前夜から白装束の女性の神司が御嶽にこもって夜通しの祈りを捧げる
その神司の傍らで、男衆が入れ替わり立ち代りで寝ずの番をするらしい
居眠りが出るので太鼓を叩いて防止する
人里離れた野原や森の御嶽でどろどろどんどんとなる太鼓の音
他所の集落の者や女達は近寄ることもできないのだが
暗い農道の端っこに車を止めて、遠巻きに聞く太鼓の音は異次元の響きを感じさせる
おりしも中天にかかる十六夜の月

ここ何年か、その異次元に会いたくて暗い農道に車を止めたのだが
今年はすっかり忘れてしまった
仮面神アカマタの出現はここしばらく見ていないので、今年はぜひ見ておきたい
荒々しい祭で昔は死人も出たという話だ
なんだか出不精になる気持ちを奮い立たせようと友人を誘った

日も落ちた7時半過ぎ、小学校の裏手に車を止めて歩いていくと、
サトウキビ畑の向こうの祭祀場から異様な太鼓の音がする
あたりはたいそうな人だかりで、草に覆われた大きな仮面神の頭の先がチラッと見えるだけ
着くと間もなく会場での豊年祭行事が終わった
この後は、男衆に囲まれた2体のアカマタが集落の家々を訪問する
これからは集落の行事になるので見物客は御引き取りくださいとアナウンスが流れたが
遠巻きにしか見られなかった見物客は、アカマタをもっと近くで見たくて、最初の訪問先に向かってぞろぞろと動き出した

どこの家でアカマタを迎えるのかさっぱり分からない
ぞろぞろと動き出した人の流れにくっついて、人だかりのしている見知らぬ民家の庭先に滑り込んだ
開け放たれた家の中には、酒やご馳走が並び、親族がぎっしりと座ってアカマタの登場を待ち構えている
中央を広く開けたその庭にやがてアカマタがやってくる。

紺地の着物に白いステテコ、赤と白の鉢巻を結んだ男達が、隙間なく庭を囲んで太鼓を叩きながら
意味の分からない言葉でアカマタの歌を歌いはじめた
だんだん興奮してくるようでトランス状態になってくる人もいる
その周囲に身動きもできないほど詰め掛けた観客が、前の人の肩の隙間からそれを覗いている
その時、遅れてきた男衆の一人が、邪魔だ通せと方言で叫んで後ろから肩をわしづかみにした
無情に押しのける荒々しいそのしぐさに、また緊張感が走る

やがて、ものすごい草いきれとともに、6尺棒を持った男衆に守られてアカマタが入ってきた
身の丈2mもあろうか、体中を草で覆われた大トトロのような仮面神アカマタが2体
写真を撮ることもスケッチすることも許されない秘祭で、観客は異様な雰囲気につつまれた
太鼓の音と男衆の歌う歌がひときわ大きくなり、周囲の観客が手拍子を打ち始めた
不思議な歌にあわせてアカマタが跳ねると、周囲の観客が合いの手を入れながら同じように跳ねた
周囲にぎっしり詰め掛けていた観客は、集落の人たちが多かったらしい
しばらくそうして踊った後、また男衆に厳重に取り巻かれてアカマタは東の方に去った

次の家まで追いかけようとする観客を、6尺棒を持った見張りの男衆がきつい言葉で静止する
アカマタの前をふさぐことはもちろん、後ろを追うこともできないのだ
熱気と興奮と人いきれとで汗びっしょりになって、体中がベタベタだった
ぞろぞろと西回りの道に廻って、太鼓の音を頼りにアカマタが次に訪れる家を探して行く
そんな風にして夜通し集落の家々を廻ってから、夜の明け方にアカマタは山へ帰っていくらしい

2箇所見ることができたので、もう気が済んだねと友人と引き上げてきた
自動販売機で冷たいお茶を買い、首にぶら下げたタオルで汗をぬぐった
車の場所までかえる道は街灯もなくて真っ暗、まだ月も見えず満天に星が輝いていた
遠くから聞こえるアカマタの太鼓の音のほかにはすだく虫の声ばかり
こんな景色の中に私は居たかったのだなあと思い知る
よそ者だし、いまさら嫁に行く当てもないし届かない願いなのだけれどね

友人を送ってから家に着いたら、すでに9時を廻っていた
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by isozineko | 2013-07-26 18:51 | びっくり! | Trackback | Comments(4)

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Commented by taro012345 at 2013-07-30 22:20
スケッチもできないって、前代未聞。
大きなトトロ風の鬼でしょうか?
ますます見たくなります。
Commented by isozineko at 2013-07-31 10:37 x
その場に行けば見ることはできるのです。
人垣の間から垣間見る程度ではあるのですが、今回は3mくらいに接近しました。
ずんぐりした大きな卵形の籠の周囲に草を詰め込んで覆い、頭頂にはススキが立っています。漫画のオバキューのような草の塊で、眼は大きな夜光貝が光っています。
西表島の一部に同じような仮面神の秘祭があって、見に行く人も多いです。
絵に描いても録音してもいけない決まりで、西表ではカメラやエンピツを持っているだけで会場に入れず、ケータイも回収されてしまうそうです。
Commented by にいにい at 2013-08-03 19:35 x
久し振りの長文に記者魂を感じますね。体験を時系列で記憶して文にまとめるのって以外と難しいと思ってます。東北のなまはげのような様相とイメージしていますが現場で見るしか方法がないのに、それすらも制限されるって意味があるのでしょうね。
Commented by isozineko at 2013-08-06 13:18 x
アカマタはまったく大トトロのような姿です。
体中が草で覆われていますけどね。
松明の明かりで見る姿は異様としかいえません。
土着信仰に裏付けられた門外不出の秘祭ですから、よそ者には姿さえ見せないというところでしょうかね。
西表島の1部地域にも同じような祭があります。
この時期は民宿も休みだし、夜は船も出ないので、観客は青天井の校庭に軟禁されて、見張られるそうです。
ケータイもカメラも一緒くたに籠に放り込まれて取り上げられ、帰りに自分で捜して取ってくるのだそううですよ。